山の端に茜が差し始める。鳥たちの盛んな話声が、頭上から無遠慮に降ってくる。薄ら瞼を上げ、ぼやけた視界から今の状況を思い出す。
少しの間だけ壊れた窓から見える空を眺める。アバニはタイハクより早く起きていたのだろう。くすんだ馬体で砂浴びをして寛いでいた。ひとしきり馬を眺めてから青年はやっと状態を起こす。二、三度軽くこめかみを小突けばだんだんと意識がはっきりしてきた。
(まだ早い時間帯だな……よかった)
緊張のせいかあまりよく眠れなかった。未だ眠気が残る体でタイハクは座ったまま大きく伸びをした。昨晩の内に用意しておいた野営用の調理器具を取り出す。慣れた手つきで火を点け、鍋に食材を次々と放りこんでいく。昨晩採集して水に漬けておいた若芽、保存食の餅、香辛料と隠し味を少々。鍋から立ち上がる香りに強張る心が少しだけほぐれる。
「アバニ、食べておいで。そっちにいい若芽あったから」
馬に指示をして自分も朝食をとる。大したものではないが、餅さえ食べておけばなんとかなることを知っていた。
軽い朝食を済ませ、火の始末をしてから準備を整える。アバニの染料は上手く定着してくれたらしい。癖のあるにおいが残ってしまっているが、先ほどの砂浴びで少しは和らいだだろうか。どこか落ち着かないアバニの手入れをしてやり、ようやくタイハクは出かけることにした。
日が出ているうちは派手な行動はできない。昨晩の魔法使いの顔を思い出しながらタイハクは苦い顔をする。少し歩いて都の端へ行けば、防衛隊西都支所が見えてくる。砂丘との境界碑──ウマノスの並びの中に存在する、硬い石作りの建物。常に警備のための兵士が配置されており、旅人や商人は専用の入口を通って砂丘へ出て行く。今は朝方だからだろう。砂丘から西都へ入って来る人々が多く見られる。
(昼間の内はむしろ人が少ない……やっぱり夜じゃないと難しいか)
白昼堂々正面突破はあまりに分が悪すぎる。旅人や商人隊が多く出て行く夕方が狙い目だろう。遠く見える砂の丘には、すでに陽炎が立っている。今日は暑くなりそうだ。