それから二人はズチから頼まれていた買い物などを済ませ、帰路に就く。その頃にはすっかり日が落ちていた。山間にあるこの町はすぐに真っ暗になってしまう。少し視界を広くすれば降りてくる闇夜へ抗うように、町明かりはその数を増していた。町明かりに潰されそうな一番星の光が遠くに見える。
「ん……なんか賑やかだな」
町の入り口を仕切る木製の門、その近くには総合掲示板がある。求人や新聞が貼られる場所で、普段であれば気に掛ける所でもないのだが──今日はどういうわけか、掲示板前に人だかりができていた。
「あ、おまえ」
身を乗り出しかけたオウの首根っこを反射的に掴んで止める。むっと頬を膨らませるオウを無視し、タイハクはそのまま掲示板の方から少女を引き離す。それを見たのか、そそくさと二人と掲示板の間にアバニが割って入る。彼女はすました顔であくびをした。
「いや、ちょっと、なに!?」
「なんでもない。見ない方がいいものもある」
再度その腕を掴んで、二人と一頭はその場を離れる。狭い門を通る一瞬、掲示板前に置かれていたものと目が合う。一瞬、そちらを見ようとしてしまいそうになって慌てて目を逸らす。見なくてもいいものだ、と己に言い聞かせて足早にその場を去ろうとする。
「これ、ひと、に、あら……ず」
隣から小さく読み上げる声が聞こえる。隣に置かれた『之人に非ず』と書かれた立て板が乾いた音を立てて倒れた。