境界線を越え砂地にアバニは降り立つ。ザン、と深い砂が立ち上がる。それをものともせず、力強い後肢はスピードを維持したまま丘陵を下っていく。しばらくして支所が見えなくなってくると、アバニはゆっくりと足を止めた。タイハクはさっさとその背から降りて、荷と鞍を外してやる。適当に降ろされたオウも額の汗を拭いながら、その場に座り込んだ。
「魔法使いだったのか、お前」
「そうよ。魔法使い。怖い?」
「……別に。魔法使いがどうしてここに? 山でひっそり暮らすことだってできるだろ」
「私は東都に行かなきゃいけないの。絶対に」
「なんで、」
少女はゆるりと顔を上げ、タイハクへ向き直る。
「私はね、月を墜としにきたの」
月光に透けた毛先が、赤く輝いて見える。思い当たった彼女の正体にタイハクは息を飲んだ。
「そうか、お前が──」
じくり、と目の奥が痛む。ひと際強いその痛みに彼は思わず頭を抱えた。支えられなくなった体がゆっくりと砂丘に崩れ落ちる。
「しまった……! 待って、大丈夫、大丈夫だから!」
声は遠く、視界は狭く、あらゆる音を置き去りにして意識が沈んでいく。先のダメージは深刻なようで、もう指一本動かせない。砂に飲まれていくかのような、不快な息苦しさが胸を襲う。
「待って──、──!」
薄れる意識の中、青白い月がこちらを見下ろしているのが分かった。