文章

二、魔女

「おかえりなさい」柔らかな声は夕食の香りと共に二人を出迎えた。「どうだった? 賑やかだったでしょう」配膳を済ませ、やっと席に着いたズチは二人に笑いかけながら匙を持った。食卓には余り物肉団子のスープ、土産の串焼き、山菜の和え物、川魚の煮つけ、…

「さ、てと……こりゃ想像以上の規模だな……」辿り着いた先で、日向は腕を組んで考える。複雑に展開された魔術陣が部屋を埋め尽くしている。どうやら部屋ひとつを魔術炉に変えてしまったらしい。中央には核となる遺物が設置されている。あれがなんなのか、確…

「なんでそうなるんだよ」思わず文句が口を突いて出る。さして珍しくもない口応えに、電話の相手は苦笑した。『ごめんごめん。でもこういう急用に対応してくれるのって、霜助しかいないからさ』さらりと吐かれた甘い毒に、青年は足を緩める。そう、こいつはこ…

一、宿場町・オニ

窓からさしこむ光に、目を細める。布越しに見える空は高く、日が昇り切っていることを柔らかに伝えてくれる。青年は数度寝返りを打ち、意識を覚醒させようとする。じわりと浮かび上がってくるのは、身体に張り付く眠気と倦怠感。不快感を拭おうとした手は、汗…